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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5259号 判決 1967年1月30日

被告 不動信用金庫

理由

一  別紙不動産目録記載の物件が原告の所有であること、右物件には請求趣旨(一)記載の各登記がなされていること、被告の原告に対する債務名義として請求趣旨(三)記載の公正証書が存在し、右公正証書には原告主張のような記載の存すること、右公正証書の作成については訴外駒井邦雄が原告の代理人として関与していること、ならびに被告が昭和三七年一一月上旬右債務名義に基き、原告主張にかかる債権に対し差押および転付命令を得たこと(請求原因(二)の(ホ)の事実)は当事者間に争いがない。

二、そこでまず抗弁について判断する。

(一)  《証拠》によると、被告が昭和三五年三月一四日東京開発との間に、継続的貸金、手形割引及び手形貸付契約を締結したこと、右契約には、(1)被告が第三者より裏書譲渡をうけた手形により東京開発に対し有するに至つた手形債権は、これを右契約にもとずき発生した債権とみなす。(2)右契約にもとずき東京開発が被告に対し負担するに至つた債務((1)記載の債務を含む。)の内一部でも遅滞に陥つたときは、その余の全債務についても東京開発は期限の利益を失う旨の各約定が附随していたこと、原告が、右同日、被告に対し右継続的取引契約にもとずき、東京開発が被告に対し負担する現在及び将来の債務を担保するため、本件物件に極度額を金一、〇〇〇万円とする根抵当権を設定し、かつ被告との間に、右債務が遅滞に陥つた場合には、被告の予約完結の意思表示により右債務全額の弁済に代えて本件物件の所有権を被告に移転する旨の停止条件付代物弁済予約を締結したこと、昭和三五年四月二三日、被告と東京開発及び大和開発との間に、大和開発が東京開発の被告に対する右継続的取引契約上の一切の地位を、すでに発生している具体的債務を含めて承継する旨の契約を締結したこと、及び原告が、右同日、被告に対し、大和開発が東京開発より承継した右継続的取引契約上の地位にもとずき将来負担することあるべき一切の債務につき(同日以前にすでに東京開発が被告に対して負担していた債務で、大和開発が引受けた具体的債務と共に)引きつづき前記根抵当権設定者及び停止条件付代物弁済予約にもとずく物件提供者としての地位にとどまる旨を約したことを、それぞれ認めることができる。原告は、原告が担保を提供したのは、大和開発が昭和三五年四月二三日以降被告に対して負担すべき債務に限られるものであつて、大和開発が同日以前に被告に対して負担した債務は勿論、第三者(東京開発も含めて)が、被告に対して負担したもので、大和開発が承継した債務のごときは包含されないと主張するけれども、この点に関する証人中川千代二の証言ならびに原告本人の供述部分は、いずれも前掲各証拠に照らして当裁判所の措信しないところであつて、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  次に、被告が、大和開発振出にかかる別紙約束手形目録記載の約束手形九通(金額合計七四一万六、〇〇〇円)の所持人であることは当事者間に争いがなく、右の事実と、《証拠》を総合すると、被告が昭和三六年三月一七日請求の趣旨(二)記載の公正証書作成費用及び大和開発が被告の会員となるための出資金に充てる目的で、大和開発に対し金三万四〇〇〇円を貸与したこと、及び被告が翌一八日大和開発との間に、右手形債権ならびに貸金債権を合計した金七四五万円について準消費貸借契約を締結し、原告が、同日被告に対し、右準消費貸借上の債務につき、大和開発と連帯して保証する旨を約し、被告の選定する者に対し右公正証書の作成を委任したので、被告はその職員である訴外駒井邦雄を原告の代理人として本件公正証書の作成に関与させた事実を、それぞれ認めることができる。証人中川千代二の証言ならびに原告本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分は、前掲各証拠に照らし措信できないところであつて、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定に従えば、請求趣旨(一)記載の各登記は、いずれもその実体を有するものであり、請求の趣旨(二)記載の公正証書には原告主張にかかる瑕疵があるものとは認められない。

三  そこで、再抗弁について審按するに、原告は、(イ)前記根抵当権設定契約は、その被担保債権の範囲について原告に要素の錯誤があるから無効である。仮りにそうでないとしても、原告は被告に欺かれたものであるから詐欺による意思表示をして取消す。また(ロ)被告と大和開発との間に成立した前記準消費貸借契約について、原告が連帯保証をした際、被告は、原告に対し、右準消費貸借の目的とされた既存債務は、昭和三五年四月二三日大和開発と被告間に成立した継続的取引契約にもとずき大和開発が被告より新たに貸付を受けた債務であると告げたので、原告はその言を信じ連帯保証をしたものであるところ、真実は、右準消費貸借の目的となつた前記各手形債務は、いずれもさきに東京開発の被告に対する債務を、大和開発が肩代りしたもので、大和開発が新たに借受けたものではなかつたから、原告の右意思表示は錯誤もしくは詐欺によるものであると主張するけれども、証人中川千代二の証言ならびに原告本人尋問の結果中この点に関する部分は当裁判所の措信しないところであつて、これを他にしては、これを認めるに足りる証拠がないから、右主張はいずれもこれを採用できない。

四、そうだとすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はすべて理由のないことは明らかであるから、これを棄却

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